林檎好きの戯言ログ

気まぐれでしかブログ書きません。しかし毎回長い。

FUTURE LINE × ヒカリイロの歌 ――音楽によって描かれた「ハジマリ」

 

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「叶えたい夢を数えながら」「秘めたヒカリを解き放った」/逢田梨香子「FUTURE LINE」、鈴木愛奈「ヒカリイロの歌」より

前置き

 

ずっと書く書く詐欺をしていたけれども、2020年1月14日に放送された「ゆうがたパラダイス三森すずことアニソンパラダイス」を拝聴し、「そろそろ書かなきゃ」とやっと決心できて、鈴木愛奈さんのデビューアルバム『ring A ring』のリード曲「ヒカリイロの歌」がYoutubeで公開された当時に書こうとした内容を実際に言語化している。

 

アニメ「はてな☆イリュージョン」のエンディングテーマでありながらも、それは鈴木愛奈さんのデビューへの気持ちをも描写している曲でもあるかのように私は感じた――というか、どうやらその部分を意識した産物があの曲の歌詞と音楽だったらしいし、鈴木愛奈さんも雑誌の中でそう語られたらしい。

 

 

そんな曲であって、そしてそんな曲を持ってデビューする鈴木愛奈さんだからこそ、私は自分の推しである逢田梨香子さんのデビューEP『Principal』のリード曲「FUTURE LINE」をも思い出す――デビューに対する心境を明確に描写した「FUTURE LINE」、そしてデビューに対する心境を描写する一面をも持つ「ヒカリイロの歌」は、どちらもすばらしい楽曲であって、その同時に歌詞だけでなく、編曲上もお二方のスタートラインに立っている姿を描くことができていると感じたから、今回も「Pianoforte Monologue」の時と同じように、できるだけ少しだけその景色を共有してみようと思う。

(Pianforte Monologue未読の方はぜひ下記のリンクをどうぞ) 

ringojolno.hatenablog.com

 

こういう分析系の記事の原則を言わせてもらうと、

  1. 基本、音楽理論と個人論を元に書かれている内容であるため、100%真実にされては困るが、本気を持って読んでいただけるほど嬉しくなる;
  2. 歌詞に触れる時もあるかもしれないが、「音楽で歌詞を描く・なぞる方法」という方面のみで歌詞を触れさせていただいているので、決して歌詞考察の記事ではない;
  3. 「本当の仕組みと意図」は作曲者・編曲者のみが知る;
  4. 理論をも含めて、どんなに簡単に言葉にしようとしても、どうしても超長文になってしまうので、おそらく昼休憩に読んではいけない文章である。 

また、今回はアーティスト二人のそれぞれの曲を観察し対比させる記事でもあるが、逢田梨香子さんが大好きなのはもちろん、鈴木愛奈さんのお歌も好きだからこそ、見せたいのはそれぞれの曲から反映されたそれぞれの心境であって、あくまで客観的観察をしているのだ。「どっちの曲のほうが良いのか」、っと優劣を付けるための記事を書いているわけではない。

 

上記を念頭に置きつつ、(長文だからおそらく時間かかるのだろうけど)少しだけ付き合ってくれるとありがたい。

 

 

基本情報


 
今回も観察部分に入る前に、曲に関しての情報や、分析に使われる概念を少し説明させていただくが、なにせ二曲に対する観察とお互いに対比させる過程が含まれているので、まずは理解に必要な情報、すなわち音楽理論から説明しよう。

 

和音(Chord)という概念

和音とは最小3音で構成する和音であり、基本の三和音は音程(interval)で3度(degree)間隔の音を採用し構成される。

 

https://pianomusictheory.files.wordpress.com/2016/06/c_major_diatonic_chord_names.png

例としてC Major scaleのコードを引っ張ってきた。それぞれの音にローマ数字を振り、その上に三度間隔を取って音(第三音)を足し、さらにその上にまた三度間隔で第五音を足して基本のコードを構成。(画像ソース:https://piano-music-theory.com/2016/06/14/diatonic-chords-of-c-sharp-major-scale/)
 
大文字のローマ数字=長三和音(Major triad / Major chord)長調の中では I、IV、V がそれに該当し、功能和音 (functional chord)とも呼ばれており、楽曲の調性を確立する役割があるIコードTonic chordとも呼ばれており、いわゆる対象の音階(Scale)の「ド」を最低音(根音)にしてその上に第三音と第五音を足して構築された和音であり、調性を決めるにあたって決定的な和音でありもっとも重要な和音である。
フレーズの終わりでV→Iの終止(Cadence)は「完全終止(Perfect cadence)」と呼ばれ、古典音楽ではもっとも望ましい終止式であり、Iコードの重要性もそこから覗かれるのではないかと。
 
小文字のローマ数字=短三和音 (minor triad / minor chord)長調の中ではii、iii、vi がそれに該当し、残りのvii°は減三和音 (diminished chord)。短三和音は比較的に不安定であり、その不安定感を解消するためには最後には大体功能和音につながる。
 
長調では、viコードが本調の関係小調のTonic chordになっており、その特性で短三和音の中では一番安定している和音とも見られている。(例:C Majorのvi=A minorのiコード)
少し前までは「安定感の意味でI>vi>V>IV>ii=iii>vii°と個人的に感じている」と主張していたのだが、 よく考えたら「完全終止」という王道の終わり方を成立させるためVコードは不可欠であり、またVからI・vi・IVに繋がることも多かったことから、おそらく重要性と安定感を考えて「I>V>vi>IV>ii=iii>vii°」のほうが正しいと思う。

 

ちなみに、ローマ数字の振りは特定の和音に限定するものではなく、音階によって違ってくる。例としては、A Major(イ長調)のIコード(A)は「A-C♯-E」に構成されているが、それがD Major(ニ長調)のVコードでもあって、さきほど言及した 「完全終止」を活用すれば、調性がA Majorだったメロを容易くD Majorに転調し次のメロに入ることができる。

 

楽曲の基本情報

二曲を観察する記事であるため、表を使用することが多くなるが、おそらくそれが一番見やすいのであろう。

 まずは下記の基本情報から。

 

ヒカリイロの歌

FUTURE LINE

調性

B♭Major(イントロ前)/

E♭Major(イントロ・Aメロ・Bメロ・落ちサビ後半) /

D Major(サビ・間奏・落ちサビ前半)

C Major(イントロ・Aメロ・Bメロ・サビ・間奏前半・アウトロ)/

A♭Major(間奏後半)

(テンポ)

約187 BPM

約159 BPM

4拍子 (4/4)

4拍子 (4/4)

 

基本二曲も4拍子の速い曲の部類に入るが、古典音楽の用語で表すと、「ヒカリイロの歌」は「Presto(急速に)」、「FUTURE LINE」は「Vivace (活発に速く)」に該当する。調性に関しては、間奏だけに変化がある「FUTURE LINE」に比べて、「ヒカリイロの歌」は数個の調性が持っているが、この点に関してはまた後ほどに述べさせていただく。

 

楽曲構成

 ご存知の方もいると思うが、現代の曲は基本イントロ・Aメロ・Bメロ・サビとアウトロで構成され、Aメロ・Bメロ・サビを繰り返すことで楽曲が成り立てる。「ヒカリイロの歌」も「FUTURE LINE」もそのセロリーに沿っているのだが、お互いとは違う所もあり、調性や和音を使った簡単な説明を入れてその違いをご覧いただこう。

 

構成

ヒカリイロの歌

FUTURE LINE

イントロ前のメロ

B♭Major; IV(E♭)からスタート

×

イントロ

E♭Major;IV(A♭)からスタート

C Major;IV(F)からスタート

Aメロ1

E♭Major;I(E♭)からスタート

C Major;IV(F)からスタート

Bメロ1

E♭Major;iii(Gm)からスタート

サビに入る直前にIII(G)を採用しそのまま一個上げてA(D MajorのV)に入り、サビ1に突入

C Major;Ib(C/E)からスタート

サビ1

D Major

I(D)で始まり、同じくIで終わる

C Major

IV(F)で始まり、同じくIV終わりそのままイントロを繰り返してAメロ2へ直行

間奏1

D MajorE♭Major

I(D)から始まり、いくつかのコードを通じてE♭MajorのAメロに戻る

 イントロと同じ

Aメロ2

Aメロ1と同じ

Aメロ1と同じ

Bメロ2

Bメロ1と同じ

Bメロ1と同じ

サビ2

サビ1の後半を短縮し、IV(G)でそのまま間奏に入る

大まかサビ1と同様;I(C)で終わりそのままCメロへ直行

間奏2

D Major

関係調であるBm minor色が濃い始まりとD Major色が濃い終わり

×

Cメロ

D Major

完全に新しいメロディーを導入し、落ちサビに入る前に一小節の無音がある

C Major A♭Major

C Majorの♭VII(B♭)から始まり、V(G)に着いた後A♭MajorのIV(D♭)に入り、さらにII(B♭)→C Major のVであるGに着き、落ちサビに繋がる

落ちサビ

サビの繰り返し

一回目:D Major、後半改変あり

二回目:E♭Major(D Majorから一個上げての転調)、そのままI(E♭)の一個のコードで終わって曲を締める

大まかサビ1とサビ2と同じ;後半のメロディーに改変あり

アウトロ

×

C Major

イントロ+α、IV(F)で終わる

 もっとも明確な違いを言うと、「FUTURE LINE」はイントロとアウトロ両方が備わっていて、逆に「ヒカリイロの歌」はイントロの前にすでに歌唱パートが一発に入り、そして落ちサビの終わりと共に曲が締められ、すなわちアウトロが存在していないともいえる構成だった。そのほかに間奏1の作り方や間奏2の有無とか、さらに調性や和音による始まり方とか、そういう細かいところも見て、さらにこの二曲の違いが見えてくる。

 

楽曲対比と分析

 

ここからはいくつかの音楽上の表現を見て行き、それによって描かれた景色を少しだけ説明して行こう。

 

編成における表現

さきほども少し触れたのだが、まずは一番わかりやすいところから、

  • 「ヒカリイロの歌」のイントロ前にさらに段落があり、ボーカルラインと全楽器で楽曲が始まる
  • 「FUTURE LINE」にサビ2の後の間奏がなく直接にCメロに突入
  • 「ヒカリイロの歌」にはアウトロがない

この数点が見れる。

 

「FUTURE LINE」の場合

イントロではピアノ+アコギ+ベースで始まり、そのあとドラムとストリングスを加入したイントロは、楽器を畳み掛けて行くことで、少しつつ風景のディテールを披露し、最終的に全体の風景を見せる展開だと考えている。

そしてアウトロはイントロのを繰り返しながらも変化を入れて、最後に「疑念」と「続き」を連想させるIVコードで終わることで、「未来に繋がる」、「未来への期待」を語るような仕掛けでもあると感じている。

 

「ヒカリイロの歌」の場合

畳み掛ける手法よりも、「ドンっ!」とボーカルや全楽器を一気に出す「ヒカリイロの歌」の始まり方は、歌詞の「始まるよ 私の道」にも呼応していて、「最初から全力を見せてやる」という勢いがはっきりと見える。

そしてそんなイントロに合わせるかのように、落ちサビの最後の歌唱「解き放った」の高音(E♭5)のあとに、やはり全楽器が「ドンっ!!」と奏でて、その1コードをただただ響かせてそのままアウトロなしの終わり方をしているが、個人的に「光を解き放った後の明るさ」や「ゴールイン」の意思が見えて、それはとっても颯爽であり潔い終わり方だと感じた。

 

調性における表現

1. 半音階主義

 前回観察した「Pianoforte Monologue」は全音階主義(他の調性からの和音が使用されず、曲の調性にある7つの和音のみが使用される)の曲だったが、「ヒカリイロの歌」も「FUTURE LINE」もそれと逆の半音階主義であって、つまり本調からの和音のみではなく、他の調性から借りた和音も使用されている。

調性それぞれに「主題の色」があると仮定すれば、半音階主義はその主題の色に「別の色の飾り」を足す効果があり、曲がさらにいろんな色彩が溢れているようになり、転調に至ることもあるのだが、ここは「ヒカリイロの歌」のBメロと「FUTURE LINE」のサビ1を例にしよう。

 

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ヒカリイロの歌 Bメロ(調性:E♭ Major)

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FUTURE LINE サビ1 (調性:C Major)

赤い字の和音はすべて本調にない音が含まれた和音であり、例とされた部分だけでなく、曲中のほかの所にもこうして半音階主義が運用されている。

ちなみに個人的には、「FUTURE LINE」のサビに使われるF#º7コード(F+A+C+E)から「躓き」もしくは「戸惑う」を感じ、その点歌詞の「新しい世界のなか 私が向かうのはどこなの どこなの」にとても似合うと思っている。

 

一方、「ヒカリイロの歌」に関しては、後ほどに述べる転調をも加えて、こうして半音階主義が活用されている中で、私は曲から「変色」が強く感じられ、それも「ヒカリ」の形であろうと感じた。 

 

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ヒカリイロの歌 サビ1 ラストフレーズ(調性:D Major) 唯一の本調外のコードであるGmによって、一瞬だけ曲の雰囲気がほんのりと暗くなり「溜め」が作られ、そこからAコードに上昇し踏み込み、そして最後に完全終止(V→I)を見せて堂々と光を放ちDコードに降臨する流れが、個人としてはものすごく好きなポイントである。

 

2. 調性の「色」と転調

上記の曲の構成表に表されたように、二曲も転調が含まれていつつ、「ヒカリイロの歌」のほうが圧倒的に転調の回数が多いが、それぞれの調性によって描かれる景色も違って来る。

 

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「ヒカリイロの歌」と「FUTURE LINE」 転調の流れ

「FUTURE LINE」の場合

 

「FUTURE LINE」に使われるC Majorは、シャープもフラットもなく、ピアノ鍵盤では黒鍵が一切使われず、いわゆる一番簡単な調性であって、物理的に「白い」調性でもある。また、各調性に独自の「色」もしくは「景色」があるとし、私の中のC Majorのイメージは「日差し」と「晴れた青空」になっていて、それぞれ

 

  • 「FUTURE LINE」のPVにある、砂浜にはしゃぐ逢田さんを支える青空→「晴れた青空」
  • 「FUTURE LINE」のPVの全体的明るい環境と光線→「日差し」

 

という関係が私の中では形成されていて、故にC Majorをチョイスした選択が「ちょうどいい」と思うのだ。

 

また、「逢田梨香子のRARARAdio」や雑誌にでも言及された逢田梨香子さんの思いは「自分はこの路線だと決めずに」であり、彼女はご自身と『Principal』を「無色」と例えられていた。

 

正直まだ自分がひとりのアーティストとしてどういうジャンルが合っているかわからないし、今こうだと決めるのもよくないのかなって思っていて。なので最初は皆さんの意見も取り入れつつ、進めるほうがいいのかなと。(中略)あと、客観的に見て自分は無色に近いほうなのかなって思っているので、今は、こうと決めずにいろんなことをやってみたいです。そうすることで、自分じゃわからなかった部分を見つけてもらえるんじゃないかなと。最初から自分には合わないと決めつけないようにしようと思っています。

リスアニ!2019 May Vol.37

 

Q. この『Principal』を色に例えるなら?

A. “無色透明”ですね。この作品に向き合うにあたって自分の個性はなんだろうと考えたときに、良くも悪くも無色透明で色のないところかなって思ったんですよね。だからこの作品に入っている曲たちも、1作目だからこそできる表現ができたんじゃないかなって思っています。これから逢田梨香子という無色透明なものにいろんな色を塗り重ねていって、その先にどんな曲を歌えるようになるのか。自分自身もすごく楽しみにしています。

B-PASS 2019年8月号

 

そんな思いを表現したデビューEPのリード曲「FUTURE LINE」を、なんの装飾もない「白」のC Majorの曲にしたのは、個人的に結構の名案だと思っているし、Cメロでは曲の唯一の転調によって調性がA♭ Majorに変わったのだが、そこでまた違う色が見えて来て、さらに歌詞の内容をハイライトできたと考えている。

 

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FUTURE LINE Cメロ 太字の歌詞および赤いコードは本調のC Majorから離れてA♭ Majorに転調した部分

 

一つ面白いなぁと思ったのは、Cメロの前半はまだC Majorにとどまり、楽器やコード進行による「浮遊感」に落ち付き(=I コードへの定着)がなく、それも歌詞の疑問「その先にはどんな景色?」にとっても似合うのだが、その後ドラムが再登場した瞬間調性もいきなり初登場のA♭Majorに移動し、文字通り「今までと違うこと」になっており、さらにそのあとまたC Majorに戻りそのまま落ちサビへ突入したこと。割と露骨なword painting(音楽が歌詞を模倣する技法)にも見えて、そして今までの無装飾のC Majorへの対比にもなり、落ちサビに入るためのテンション作りにもなりスパイスにもなった。

 

転調回数が少なかった「FUTURE LINE」だが、調性と転調によって描かれたのは、少しだけ戸惑いを感じながらも前進する「ハジマリ」、そしてその先にある、どんな色に染められるかへの「期待」と「可能性」だ。

 

「ヒカリイロの歌」の場合

 

全楽器と共に堂々と響く歌唱パートにてスタートを切る「ヒカリイロの歌」は、B♭ Majorから始まり、そこからE♭ Majorのイントロに突入し、サビではD Majorに転調した。そのあと短い間奏を通じてまたAメロ・Bメロとサビを繰り返し、さらにD Majorをメインにして間奏やCメロに進み、落ちサビではD Major→E♭ Majorという上昇転調を果たし、歌唱パートが終わった直後にわずか一つの和音で潔く曲を終了した。

 

落ちサビに関しては、「サビ1+α・サビ1」という構成で作られ、「サビ1+α」のD Majorを一個上昇させ「サビ1」のE♭ Majorという転調は実にものすごく真っ直ぐであり、一番直接な方法で元から熱かったサビをさらに盛り上げてみせた。

 

私の中では、「ヒカリイロの歌」がまるでプリズムのようだ――光を分散させ、本来一色のみに見えた光もそれによって様々な色を見せてくれる。B♭ Majorはイントロ前のメロにしか使われなかったのだが、それ以降に使われたE♭ MajorとD Majorこそがその延長であり、さらに先ほど言及した半音階主義によって、本調とは違う別の色がちらほらとばら撒かれて、見事に色彩で魅せてきてくれた。

 

――「ヒカリイロの歌」の曲カラーは決まっていますか?

「決まっていないですね。いろいろな光があっていいと思うし、『愛って何色をしてるかな?』の答えは1つではないと思うので、それぞれのカラーでいいかなって思います。皆さんが思う光、愛の色で照らしてください」

HOMINIS『「ソロで横浜アリーナ鈴木愛奈が語る夢とデビューアルバムに込めた思い』(2020.01.05)

 

鈴木愛奈さんはインタビューで「ヒカリイロの歌」の曲カラーは決まっていないとおっしゃっていたのだが、実際プリズムのようなこの曲は調性にて「光=多重色彩」という景色を見せてくれているし、「愛って何色をしてるかな?秘めた光を解き放った」という歌詞もそういう光の側面を書かれているように見えた。

 

 ハーモニーにおける表現
 

メロディーに和音を合わせることでハーモニーが生まれてきて、一つの音に何個か和音がそれに当てはまるこそ、和音のチョイスによって違う色と意味が見えてくる。

正直この項目では語りたい部分が多すぎるのだが、おそらくあまり深く語りすぎるとかえて難解文章になってしまうので、できるだけ簡単に説明してみるが、結論から言うと、「FUTURE LINE」は「不確定」と「浮遊感」が描かれており、「ヒカリイロの歌」は「肯定」と「自信」が強調されている。

1. 各メロの始まり方、そしてそれに関係する事象

「和音(Chord)という概念」の項目にすでに言及したのだが、

  • コードは調性を決める決定的なコードでありもっとも重要なコード
  • 重要性と安定感は「I>V>vi>IV>ii=iii>vii°」

という二点があり、これらを元に二曲の各メロの始まり方を見てみよう。

 

ヒカリイロの歌

FUTURE LINE

イントロ前のメロ

IV(E♭)からスタート

×

イントロ

IV(A♭)からスタート

IV(F)からスタート

Aメロ1

I(E♭)からスタート

IV(F)からスタート

Bメロ1

iii(Gm)からスタート

Ib(C/E)からスタート

サビ1

I(D)からスタート

IV(F)からスタート

間奏1

I(D)からスタート

IV(F)からスタート

Aメロ2

I(E♭)からスタート

IV(F)からスタート

Bメロ2

iii(Gm)からスタート

Ib(C/E)からスタート

サビ2

I(D)からスタート

IV(F)からスタート

間奏2

IV(G)からスタート

×

Cメロ

IV(G)からスタート

♭VII(B♭)からスタート

落ちサビ

I(D/E♭)からスタート

*サビの繰り返しあり

IV(F)からスタート

アウトロ

×

IV(F)からスタート

 

「FUTURE LINE」の場合

a. Iコードから始まるメロはCメロしかない

 

上記の表をぱっと見て、一番明確な情報は「FUTURE LINE」の「Iコードで始まるメロの数が圧倒的に少ない」であり、Bメロは「Ibコード」で始まったのだが、「Ib」というのは「Iコードを転回し、根音以外の音をIコードの最低音にする」和音であり、この場合、「ド」ではなく「ミ」が最低音に置かれたことによって安定性も削られてしまう。

なぜ「FUTURE LINE」はここで「Ib」 を使ったのかを推測してみると、そのあとのコード進行にあわせて、ステップワイズ(stepwise)の動きを作るためなのではないかと考えている。

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FUTURE LINE Bメロ1

和音の最低音がベースラインになり、つまりここのベースラインは【E→F→G→D→E→F→G→C】になり、段階的に上昇している。さらにメロディーフレーズの並べをすると、

 

E→F→G→

D→E→

F→G→C

 

という「上昇→一旦下がってまた階段的に上昇」の構図が見える。

 大幅な移動ではなく、着実に階段を一歩一歩上る(そして一回だけ少し下がる)ところもまたその歌詞を音楽的に反映しているのではないだろうか――「迷いがないわけじゃない」と、「ふるえる指先 握って深呼吸して」の言葉は、100%の前向きよりも「不安の気持ちを抱えながらも前進する」心境を描いている。

 

b. IVコードでスタートするメロがほとんど

 

「Ib」で始まるBメロと「♭VII」で始まるCメロを除けば、「FUTURE LINE」は常にIVでメロを始めるのだが、個人的に感じるのは、IVコードには「懸念」の意味があり、それによって曲中に「不確定」の雰囲気が曲に触れる者の心を惹きつける。

 

c. Cメロという特殊性

 

 Cメロの始まりの「♭VII」に関しては、おそらく曲の流れを唐突に変えるような役割を持つのだろう。「FUTURE LINE」のCメロには曲中の唯一の転調という特性があり、「♭VII」(構成音はB♭-D-F)という和音も本調のC Majorにないものであり、それをCメロの頭に持ってくることで、ある意味「この先にある変化」を予めお知らせをした機能を果たしている。

また、Cメロの和音ベースラインは【B♭→A→G→B♭→A→G】であり、さらに楽器のベースが奏でたベースラインは【B♭→A→G→A→B♭→A→G】になっており、元から落ち着きのない段落でさらに上下移動の、そして波のような動きをすることで、歌詞の「白い雲を抜けて その先にはどんな景色?」の「疑問」と「不確定」と同調しているように見えた。

 

「ヒカリイロの歌」の場合

a. Iコードの積極的運用

 

 IVコードを多用している「FUTURE LINE」と比べると、「ヒカリイロの歌」はIコードでメロをはじめることが多かったが、「肯定」、もしくは「明確」の意味を持つ、あるいはそう思わせる和音を多用していることによって、この曲から「迷い」と「不確定」の気配がしなく、言い方を変えると「自信」のある曲になっている。

 

もちろん、IVを使っているメロもあるのだが、たとえばサビ2の後に来る間奏はIVから始まっているが、それはサビ2からのバットンタッチであり、編曲上のテンションはサビ2と変わらないからこそ、「疑念」よりも「繋がり」の色が濃くなっているのだろう。

 

b. iiiコードから始まるBメロの「変色」

 

Bメロはiiiコードからのスタートだったのだが、C minorはE♭ Majorの関係短調であり、Bメロ冒頭の「Gm→Cm」という動きはC minorに寄せており、そのあと後E♭ Majorの「B♭→E♭(V-I)」を持ってくることで、少しだけ暗かった雰囲気を一瞬で明るくし、さらにそのあと「D♭→A♭/C→Fdim/B→E♭/B♭」の進行になっており、iiiで始まったE♭ Majorのこの段落は「変色感」がある部分だと考えている。

 

2.終止式

音楽上、段落ごとに最後のニ(もしくは三)和音の進行を終止式と呼び、完全終止はじめ、いろんな終止式が存在している。それらをすべて語るのに時間がかかるので、あえて一番注目される部分・サビだけを見てみよう。

下記の表には各段落の最後のフレーズとその終止式が書かれている。太字の歌詞は終止式の和音に当てはまっている部分。

 

 

ヒカリイロの歌

FUTURE LINE

サビ1

歌詞:「秘めた光を解き放った

コード進行:A→D

終止の仕方:V→I;完全終止

歌詞:「物語は始まる もう一歩踏み出せる

コード進行:G→F

終止の仕方: V→IV

サビ2

歌詞:「何十回でも何百回だって届けてみせたい

コード進行:A→G

終止の仕方:V→IV

歌詞:「叶えたい夢を数えながら踏み出そう

コード進行:G→C4→C

終止の仕方:V→I4→I;I4→Iで完全4度から完全3度に解決しての完全終止

落ちサビ

サビの繰り返し

一回目

歌詞:「私の声を聞いて

コード進行:A→B♭→E♭

終止の仕方:D Major のV→E♭ Major のV→E♭ Major のI;(転調からの)完全終止

 

二回目

歌詞:「秘めた光を解き放った

コード進行:B♭→E♭

終止の仕方:V→I;完全終止

歌詞:「物語は始まる もう一歩踏み出せる

コード進行:G→F

終止の仕方: V→IV

 

「FUTURE LINE」の場合

三回のサビの中に、「V→IV」のフレーズの終わり方(終止)は二回使われた。

 

この曲のフレーズの終わり方は決まってV→IVになっている。 この終止式に正式な名前はないらしいが、日本のポップソングには実は結構汎用されているに見える。 IVは功能和音の中で一番不安定しているコードで、古典音楽ではほぼ決まってVに向かわせてそのあとIに戻らせるため、 それを終わりに置くのは古典音楽的にはかなりのルール違反なのだが、 ポップソングではすでに認められている終止ではあり、 「疑念を持たせる」、もしくは「続きを期待させる」趣旨もあると私は思う。

Pianoforte Monologue の音楽的なあれこれ - 林檎好きの戯言ログ

 

 

「Pianoforte Monologue」を観察した時にも言及したが、こう言った終止の仕方は「疑念を持たせる」趣旨があり、「FUTURE LINE」にある「浮遊感」を築き上げることに、IVコードの多数運用、および「V→IV」の終止の仕方はおそらく功を奏したのだろう。

 サビ2では完全終止が使われているが、それもまたちょっとした迷いを見せてくれた。なぜかというと、その完全終止に「I4(C4)」が挟まれているからだ。

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和音としては「C-F-G」を「I4」と名前付けることができるが、その同時に「V-I4-3」という進行になり、つまり「I4」と「I」の共通音であるCとGがずっと演奏されるあいだに、FがEに移動し正式にIコードを成立させる進行である。別の見方をすると、Eが先延ばされていることになるが、VのあとにはっきりとIに入るよりも先にCコードの非和声音であるFを入れて、そしてそのあとようやくEを奏でることで、少しの「躊躇」と「踏み出す」のアクションを描いていると捉えられないこともないと考えている。

 

ちなみに少しだけ個人的な感覚を語ると、「踏み出そう(踏み出す意思がある)」のところに「V-I4-3」を持ってくる反面、「V→IV」になっている「踏み出せる」を「可能性を語っており実際にはまだアクションを起こしていない可能性もある」という解釈ができたとしたら、それはそれで少し面白いなぁと感じた。 

 

 「ヒカリイロの歌」の場合

間奏に繋がるサビ2を除き、そのほかの部分は全部綺麗な完全終止が使われており、前述の「Iでメロをはじめることが多かった」ことをも加えて、「調性を決めるもっとも重要なIコードの多用+もっとも堂々としている完全終止式の多用」により、この曲は確かに光に満ち溢れていて、どこまでも明るく、躊躇いもなく、そして自信にあふれている。

 

3. サビのコード進行

個人的に一番違いを感じたのは二曲のサビのコード進行であり、その進行によって「FUTURE LINE」の浮遊感と「ヒカリイロの歌」の疾走感がさらにハッキリと見えてくると考えている。

 

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FUTURE LINE サビ1

 

まずは「FUTURE LINE」だが、

 

  • IVコード(F)でフレーズを開始する技法
  • C Majorにないコードの運用(F♯Dim、E/G♯など)
  • Iコード(C)に落ち着いたことはない
  • 【F→G→G♯→A→G→F♯】というベースの波のような動き

 

これらがその浮遊感を築き上げたと考えているが、すなわち「着地をハッキリとしない」コードとチョイスをしている所がその要だと思うのだ。特に編曲のストリングスの長音にあわせると、このコード進行に見せられる景色はまさしく「大空の中で浮いたり落ちたり、戸惑いながらも方向と道を探している」情景だ。

 

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ヒカリイロの歌 サビ1

 

一方、「ヒカリイロの歌」は

  • Iコード(D)の運用回数
  • コードの密度が若干高い
  • ステップワイスの進行もありつつ、【D→G→A→F♯】という4度上→1度上→3度上の進行もあること
  • サビ1および落ちサビでの完全終止式の運用

 

という数点の特徴があり、Iコードの運用によって落ち着きと自信が表され、密集したコードが「疾走感」を巻き起こし、サビ冒頭の【D→G】も神々しいかつ堂々しく立つ姿を連想させてくれた。また「FUTURE LINE」と同じく、D Majorにないコードもサビに使われ、それによってさらに味付けができ、「光の色」をさらに豊かにして見せた。

 

編曲における表現

どちらもアップチューンになっている「FUTURE LINE」と「ヒカリイロの歌」は、楽器編成もわりと似ているに聞こえる。

 

楽器

ヒカリイロの歌

FUTURE LINE

ピア

エレ

アコ

×

ベー

ドラ

ストリングスセッショ

シン

△(はっきりとシンセだと認識できた部分はないが、かすかに裏で支えている可能性がないとも言い切れないため敢えて△)

 

似ている編成ではあるが、編曲上のいくつかのポイントによって、二曲の雰囲気はお互いとは少し違うものになっていた。

ドラムパターン

実際に聞いてもらえればわかると思うが、「FUTURE LINE」の8ビートのドラムパターンとは違って、「ヒカリイロの歌」は「裏打ち+4つ打ち」を多目に使っている。

 

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基本の8ビートパターン。3拍目のバスドラムのタイミングをズラす時もあるが、スネアドラムを2拍目と4拍目に持って来ることと8分音符を刻むハイハットがポイント。 (画像ソース:https://musicamusik.com/post/94/

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裏打ち×4つ打ちのドラムパターン  (画像ソース:https://musicamusik.com/post/100/

8ビートはスネアを2拍目と4拍目に叩き、バスドラムも1拍目と3拍目で踏むことが多く、そしてハイハットで8ビードを刻むことが基本だが*1、それと違って裏打ちの特性は、ハイハットを使って裏拍にアクセントを入れることであり、*2そして4つ打ちは節ごとに4分音符のバスドラを踏むことである。*3

 

「裏打ち+4つ打ち」が「ヒカリイロの歌」で実際に使われた部分(YouTubeで公開されたPVが基準):

このドラムパターンによって、「ヒカリイロの歌」のリズムにノリが増えさらなる「疾走感」が加われ、「走る」イメージが浮かびやすくなる。 

ストリングス

「FUTURE LINE」と「ヒカリイロの歌」はどちらもストリングスセッションが入っており、それによってさらに壮大な曲に聴こえてくるが、どちらかというと「FUTURE LINE」の方のストリングスは長音を弾くことが多く、優しい音色でほんのりとした憂いを纏ったフレーズをサビで聴かせてくれた。一方「ヒカリイロの歌」では、高い音はもちろんだが、音色も鋭く、そして8分音符が多めの生き生きとしたフレーズを奏でることで「激動」を表現してみせたーーイントロではメインメロディーをし、そしてAメロでは低音部と高音パートが交互し、ボーカルを支えながらもとても主張が強いフレーズを聴かせてくれた。

 

「FUTURE LINE」 サビ1→ 0:58~1:22

「ヒカリイロの歌」 サビ1→ 0:56~1:27

「ヒカリイロの歌」 Aメロ2→ 1:37~1:58

エレキ

中音域を豊かにする役割をどちらの曲でも果たしているエレキだが、「ヒカリイロの歌」のサビ2のあとの間奏ではさらにソロフレーズを奏でた。

間奏冒頭でB3から始まり、先へ行くほどメロディーラインが上昇し、少し下がったところでまた上昇し、最高音のB5をヒットしたあと最終的にA5という高みに落ち着いたソロフレーズは、16小節のあいだに2オクターブの上昇を見せ、そんなフレーズをDistorted系の音色を持ったエレキが奏でて、サビ2のテンションを引き継いでさらに盛り上げた。

 

 「ヒカリイロの歌」 間奏2→ 2:36~2:59

 

ピアノ

どちらの曲にも上品な音色をしているピアノが活躍しているのだが、特筆すべきのは「FUTURE LINE」のピアノのボーカルラインとの掛け合いや、「ヒカリイロの歌」のピアノの素早いスケールの演奏。

 

まずは「FUTURE LINE」から。

 

  • 「流れ出すプレリュード」/「いつもこの勇気から 現れる次のドア」→「ドレミファソ」(Aメロ、0:43~0:45
  • 「迷いがないわけじゃない ふるえる指先」→「ソドレラソ」(Bメロ1、 0:49~0:52
  • 「新しい世界のなか 私が向かうのは」/「素晴らしい世界になる 予感の風に乗り」→「ドレミファソ」(サビ、1:03~1:04
  • 「ときめきが知ってるの?」/「自由な想像の羽」→「ドファソド」(サビ、1:09~1:10
  • 「大事と感じてるよ 心と心で」→「ソファミレド」(Bメロ2、CD音源の1:55)

 

フレーズのフレーズのあいだに余裕のある空間が存在していて、その空間の中にピアノ(とストリングス)がボーカルと掛け合いをすることで、より内容が豊かになるし、浮遊感の中にそっと出てくる清らかな音色は静かに広がってゆく色彩のように、その同時に未来を探しているボーカルにも寄り添っているように感じる。

 

そして「ヒカリイロの歌」では、ピアノはいつもボーカルの後ろに素早く走っていて、Bメロの後半「一歩一歩進むよ」と「この声と」の間(0:50~0:56)、または「キュンと胸が躍る」と「出掛けましょう」の間に(2:10~2:13)素早い上行きスケールを、そして「一歩一歩進むよ この声と」のほぼ直後に素早くスケールでエレガントに降りてくる動きを見せて、そのエレガントかつ俊敏なピアノによって「飛翔感」が見事に引き出されてた。

まとめ

わりと膨大な資料と分析をしたところ、「つまりどういうことだ?」と言われるかもしれないが、暴力的と言えるほどの簡潔さでまとめると、

 

「FUTURE LINE」→戸惑いあり躊躇いあり、しかし未来への期待をも膨らませている、「大空の中に浮遊しながら未来に繋がる線を探す」曲

「ヒカリイロの歌」→どこまでも自信的と眩しく、ただただ前を見て走って走って飛ぶ、そんな姿が放つ光によって「いろんな色彩で魅せる」曲

 

という姿を、この二曲は歌詞でだけではなく、音楽を通じて見事に描くことができた極だと私は考えている。そしてこの二曲は決して「ただそんな風景を描いただけ」のものではなく、それぞれの歌い手の心を、そして「ハジマリのカタチ」を反映している尊いものであるのだ。

 

おまけ:そもそも、逢田梨香子さんと鈴木愛奈さんは――

 

ここからは分析させていただいた曲の特徴を念頭に置きつつ、少しだけその歌い手について語らせていただきたい。

同じくAqoursというグループ、そしてGuilty Kissというユニットの中で活躍してきた逢田梨香子さんと鈴木愛奈さんだが、おそらくファンの中ではそれぞれに違うイメージがあるのだろう――民謡を習っており、「第七回全日本アニソングランプリ」のファイナリストであり、実際のところAqoursの中で屈指の歌唱力を見せ付けることができる鈴木愛奈さんに「歌」という単語に強く結び付けられている。一方、逢田梨香子さんはルックスがももちろんだが、ステージ上の表現力と瞬発力を誇り、また個人としては逢田梨香子さん特有の「熱さ」と「人間らしさ」に心が奪われていて、「桜内梨子」として歌っていらっしゃっている時のはっきはきとした発音の仕方、視覚情報である表情を歌声で聴覚情報に変換できるほどの表現力、そして芯のある歌声に惹きつけられているが、客観的に見てみると、おそらくそこまで「歌」のイメージは強くなかったかもしれない。

 

しかし、ソロアーティストデビューというスタートラインに立つお二方は対極的な部分がありながらも、根ではお互いに似ている部分もあり、だから私はよりいっそこの「FUTURE LINE × ヒカリイロの歌」の対極図がとても面白いと感じ、その中で「おっ!」と感じた数点を少しだけ語らせていただこう。

 

1. ハジマリに対して、違う気持ちになっていた

 

実際のところ、「声優という仕事を知るずっと前、小さい頃は歌手になりたかったんです」*4)と語りながらも、 「ソロデビューしてみませんか?」と声かけられた時、逢田梨香子さんは「させてください!」というよりも「私でいいんですか?」と考えていたらしいが、それは「どこまでできるのか」という模索だったり、また「自分がソロ歌手として活動する構図を想像していなかった」とも雑誌で語られていた。

 

声優としての活動を始めてから、自分がアーティストデビューすることはまったく想像していなかったです。そういうビジョンが浮かばなかったというか、その時点では自分ひとりでやっていく自信がなくて。だから、お話をいただいた時はすごくびっくりしました。

VOICE BRODY Vol.4

 

(前略)しかも、声優さんが多く所属するレコード会社ではなく、本当に新たなレーベルからの第一弾ということで、いろいろビックリすることも多くて。ありがたいお話なんですが、本当に私でいいんですか?っていうのが正直な感想でした。

My girl vol.27

 

 一方、ソロアーティストデビューが決まった時の心境を鈴木愛奈さんはこう語られていた。

"やっとつかめた。あきらめなければ、夢は本当にかなうんだ"と思いました。昔からアニメや漫画が好きで、高校2年生のときに「全日本アニソングランプリ」という大会に出て以降は"アニソンシンガーになりたい"という夢を強く抱くようになりました。

月刊声優アニメディア 2020年1月号

 

ソロアーティストデビューに対し、逢田梨香子さんは「想定外」と「一人でやっていく自信がない」という「不確定」、そして鈴木愛奈さんは「最初から目指していたものをやっとつかめた」という「肯定」を感じられており、そういった意味では「FUTURE LINE」と「ヒカリイロの歌」はデビュー円盤のリード曲として、お二方のそれぞれの心境をよく表していると感じた――歌を最初から目指し、歌のために計り知れない努力を重ねてきて、その努力がやがて実ったことの具現が「鮮やかな色を放つ光」の「ヒカリイロの歌」;そして、少しだけ自信がなくても、前向きに挑戦する気持ちを抱え、未来の線を描こうと決意した現れが「戸惑いとときめきを持って前進する曲」の「FUTURE LINE」だったのだ。

 

2. 「これは心境を映し出す曲」だと実際に語られていた

 

「それぞれの曲は音楽上それぞれの心境を表しているに見える」ということを証明したかったため書かれたこの記事なのだが、実際のところ逢田梨香子さんも鈴木愛奈さんもインタビューの中では似たようなことを語られていた。

 

音色とコード進行によって「戸惑い」と「不確定」が描かれた「FUTURE LINE」について、逢田梨香子さんはこんな風にコメントしていらっしゃっていた。

 

明るいだけじゃなく若干の迷いも混じっていて、まだ少し行ったり来たりしているような雰囲気も入っているというか。でも最終的には“前へ進もう!”という力強さが感じられて、とても胸に響きました。

My girl vol.27

 

歌詞も曲調もそうなんですけど、迷いながらも前へ進もうとする雰囲気がすごく出ていると思うんです。だから、レコーディングのときは素直に、ありのままの気持ちで歌いました。

VOICE BRODY vol.4

 

そして、疾走感満載の明るい「ヒカリイロの歌」については、

 

“すごくキラキラしていて素敵だな”と思いました。(中略)また、曲全体の流れや疾走感、歌詞もアニメの世界観をよく表していて。それと同時に、歌詞は私のことと重なる部分がたくさんあって、作詞・作曲をしてくださったZAQさんは“私の心を読めるのかな?”と思ってしまったほどです(笑)。

月刊声優アニメディア 2020年1月号

と、鈴木愛奈さんはこんな風に語られていた。

 

「公認」、という言葉を使ってしまうのはいささかおかしいのだが、デビュー円盤のリード曲だからこそ実際に描くこと、というか描くきっかけができたとも言えるし、それぞれのファンは「公認イメージソング」のような曲を通じて少しだけアーティストの心境に触れられることにとても嬉しく感じるのではないだろうか。少なくとも、私自身は逢田梨香子さんのファンとして、「FUTURE LINE」を通じて彼女がその瞬間の心境を実際に聞くことができて、よりいっそ「これからも応援するぞ!!!」と思えるようになったのだが、鈴木愛奈さんのファンも「ヒカリイロの歌」を聴いて、「あいにゃ...!これからもついて行くぞ!」という気持ちになっているのではないだろうか。

 

 

3. 「それは私一人のステージ」

さすがに実際に使われた言葉自体は覚えていないが、2019年8月8日に行われたバースデーイベントでは、 逢田梨香子さんはこう語られた。

 

今までその隣にずっと8人がともに進み、お互い支え合ってきたから、このソロステージは確かに逢田さんの言うように、「自分一人のステージであり、スタッフチームのサポートはもちろんあるけれど、それでもこれは自分のステージ」なんだ。

「僕は待ちきれない」ーー 8月8日とレグルスの星。 - 林檎好きの戯言ログ

 

 今まではAqoursとして活動してきて、ステージ上では9人がいるからこそ助け合いができたシナリオにいることが多かったが、ソロアーティストとしてのステージは違うという事実に、鈴木愛奈さんも最近に出演されたラジオでは触れられていた。

 

まだデビュー前なんですけど、2019年の段階で二つステージにソロとして立たせていただいたライブがありまして、本当に私もグループとしてユニットとして活動させていただいていたので、だからみんながいる、みんなが支えてくれているっていうのは気持ち的にすごく大きくて。みんなで何が失敗が、何がトラブルがステージ上で起こったとしても、こうも補え合える…なんとかできるっていう、みんなと一緒だったらなんとかできるという気持ちだったりとかあったんですけど、こう一人のアーティストってなったときに、そのステージに立つのは私でしかなくて、最初から最後まで皆さんと楽しい空間の中で、何があったとしてもその空間をやり遂げなければいけないという責任感と、言っちゃアレなんですけど、孤独じゃないですけど、なんかぽつんと一人になったときに「あっ一人なんだ」みたいな不安だったりとか、「なんとかしなきゃ」みたいな、そういう気持ちにすごくなっちゃって、結構不安に思ってしまったり。本当にいつもだったら思わないような、単純に「歌詞を間違えたらどうしよう」みたいなのも思っちゃったりしますし、「声裏返っちゃったらどうしよう」とか。ペース配分とかもどうなるかなぁとか、いろいろなんかソロになると不安なことがいっぱいでてきちゃって…

ゆうがたパラダイス 三森すずことアニソンパラダイス 2020年1月14日放送回

 

言っちゃえば当たり前なのかもしれないが、お二方は「今までのグループ活動とこれからのソロ活動のステージの違い」を意識し、「不安」を抱えながらもそれぞれ身を引き締めてステージに臨む姿を見せており、そこからお二方の真面目なところを覗くことができたと思うのだ。

 

4. 「私の地声ってどこなんだろう...」

声優として活動してきて、キャラクターを背負って歌ってきたからこその自問自答と、お二方は時間をかけて向き合っていらしゃっているらしい。

 

これまでキャラクターとしてしか歌ったことがなかったので、自分個人としてどうアプローチしたらいいのかとか、どうしたら個性が出せるのかとか...(中略)逢田梨香子としての歌い方はまだ手探りのような状態なので、これから自分なりの表現というものをもっと見つけていけたらなと思ってます。

VOICE BRODY Vol.4

 

「あれ?鈴木愛奈の歌ってなんだっけ?」って思っちゃったりとか、声優さんとかでいっぱいいろんな女の子とかを演じさせていただいたりとかしている中で、「あっ、鈴木愛奈としての地声ってどこだっけ?」とか思っちゃったりとか。

ゆうがたパラダイス 三森すずことアニソンパラダイス 2020年1月14日放送回

 

Aqoursのキャラクターを背負ってたくさんの円盤を出し、たくさんステージに立ち歌ってきたお二方は、たくさんのファンからの支持を得ていながらも、どちらもその現状に満足せず、ソロ活動においてさらに自分の声を求める努力をしていらっしゃっているところは、ソロ活動に力を入れて進化と進歩を求める向上心とストイックさの現れだと私は感じているし、それがとても見習い甲斐があるところでもあると考えている。

 

最後に

少しだけ私自身の気持ちを語ろう。

 

こんな風に音楽理論の視点で曲を見て言葉にするのは今回で二回目だが、正直難しい話しかできていないと思うし、おそらく読みにくい部分が若干あったのだろう。しかし、私的には歌詞もそうだけど、編曲から心境と風景が伝わって来ると感じており、それに繋がる仕掛けの可能性がとても面白く、そして役立つと感じたからこそ、こんな風に記事にしているし、少しだけ私が編曲から見えた風景をキミと共有できたら嬉しい。

 

今回は「FUTURE LINE」と「ヒカリイロの歌」を分析させていただいた原因は、逢田梨香子さんと鈴木愛奈さんが好きで、それぞれのソロアーティストデビューに対しての気持ちを描いた二曲がとても素晴らしい、そして大切な曲だと感じているからだーー雑誌やラジオ、そして曲を通じて逢田梨香子さんと鈴木愛奈さんのそれぞれソロデビューに対しての気持ちを覗くことができたのだが、個人としては「不確定」と「自信」という対比があっても、お二方の「真面目さ」にものすごく惹かれており、そしてそれらを「FUTURE LINE」と「ヒカリイロの歌」が音楽という手段で描いており、またこの素敵な楽曲たちを通じて「ハジマリに対しての気持ち」を覗くことができ、その事実に対してありがたい気持ちがいっぱいなんだ。

 

文章冒頭に引用させていただいたのだが、「謙虚でどこか不安げにも見える彼女が『歌では絶対負けない』と胸を張って言えるような歌になって欲しくて」という思いをZAQさんが語られており、実際のところ「ヒカリイロの歌」の歌詞も曲も本当に堂々としていて、どこまでも輝いていて、PVの中でそれを歌っている鈴木愛奈さんの姿も実に眩しかったし、いつの日に実際に生歌を堪能させていただきたいと思っているーーきっとそこにはもう胸を張ってステージでヒカリを伝播する鈴木愛奈さんの姿があると信じて。

 

そして、「FUTURE LINE」によって映し出された逢田梨香子像。不安あり戸惑いあり、しかし「一緒に」を強調してくださる逢田梨香子さんは、確実に「主役」として先頭に立ち、ファンの皆と歩んでいると私は感じているし、彼女が描かれる未来の線がどんな色をしているのか、いつもすごく楽しみにしているのだ。1st EP『Principal』と1stシングル『for...』を引き続き、今度は1stアルバムを3月31日に出し、そして4月に初めてのワンマンライブツアーを開催されるのだが、バースデーイベント、アニサマ2019と「with Us vol.1」を経験してきた逢田梨香子さんが今度見せてくれる景色を、私は一瞬たりとも見逃したくない。

 

1月22日に、ソロアーティスト・鈴木愛奈さんの道へのドアが開かれる。

 

3月31日に、ソロアーティスト・逢田梨香子さんの1stアルバムがリリースされる。

 

そして4月11日に、逢田梨香子さんの最初のワンマンライブが開かれる。

 

ヒカリとミライ。どうかそれに無限のユウキが溢れますように。

 

【FINE】

 

 


鈴木愛奈 / ヒカリイロの歌

 

 

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逢田梨香子「FUTURE LINE」Music Video (Short Ver.)

 

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  • アーティスト:逢田梨香子
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*1:"【ドラム用語】8ビート(エイトビート)とは | 代表曲で理解!". MusicaMusik. https://musicamusik.com/post/94/, 2019年12月8日更新(最終閲覧日:2020年1月17日)

*2:"【ドラム用語】裏打ちとは | 音楽とリズムでわかる!". MusicaMusik. https://musicamusik.com/post/100/, 2019年12月8日更新(最終閲覧日:2020年1月17日)

*3:"【ドラム用語】4つ打ちとは | 流行りのロック". MusicaMusik. https://musicamusik.com/post/99/, 2019年12月8日更新(最終閲覧日:2020年1月17日)

*4:"声優・逢田梨香子さんに10の質問。好きな男性の冬ファッションは?". MEN'S NON-NO WEB. https://www.mensnonno.jp/news/2019/11/14/109064/, 2019年11月14日更新(最終閲覧日:2020年1月17日