無題
時がまた止まった。
それは、私たちが出逢えるための、唯一の方法なのかもしれないーーあの時と同じように。
果てのある宇宙に包まれては、懐かしい景色に少しだけ、意識が彼の日に戻って行った。
あの時は、ただ力をその両手に注ぎ込むように、あの5分間に彼女の肩に手を置いて、「大丈夫、みんなあったかいから」と、念を強く送っていた。かつて私をこの空に連れて来てくれた先生が、まだ小さかった私の背中を優しく支えてくれたように。
ピアノは、すごく楽しいの。言えなかった言葉も、伝えられない感情も、ピアノなら伝えられると、私は信じていた。
でも、私には聞こえた。あの日以来の、貴女の言い出せなかったことがーーピアノがなくても、私には伝わったこと。
「共通点があまりない」と、ずっと言ってきた貴女。その瞬間から生まれた「共通点らしき何か」が、きっと貴女の翳になっていたと、私は知っていた。
かつての私もそうだったから。
でも、だからこそ。
私たちは「今」にたどり着けられたと思う。
再び鍵盤に手を置き、貴女はあの日にできなかったことを成したーー大切な仲間たちと笑顔を交わし、そして喉を響かせた。
「この曲に参加したい」と、貴女はずっと声出さずになぞっていた夢を、私は知っていた。その同時に、責任感でその夢を声に出すことについて迷いを感じていたのも、私は知っていた。
だから、今は嬉しくて嬉しくて仕方がないの。
どうしても伝えたかった。
ピアノの前に座り、あの日と同じように指を動かしている貴女が、その椅子から立ち上がった瞬間にーー
「観て、胸を張ってーー」
無数に煌めく星々は、私たちの色で輝いている。
「これが貴女が灯した星々、貴女が放った輝きに照らされた星々です。
諦めなかった想いが繋いだキセキで、私たちはここまで来られたんです」
ひとつになった想いは、きっといつでも貴女の味方のままでいてくれるから、心配しないで。
ここは、みんなで叶う物語の世界。たとえ本当の意味で出逢えることがなくても、いまはこうして、世界も想いもひとつになっているから。
私を待っててくれた仲間がいると同じように、今両側に、ステージに、そしてさらにこの銀河に貴女を待っている方々がいるから。
だから、私に任せて、楽しんできてーー
「行ってらっしゃい、梨香子さん」
🌸